2012年06月02日

駅前旅館

☆駅前旅館<1958年、東京映画>

 監督:豊田四郎
 原作:井伏鱒二
 脚色:八住利雄
(2012年6月2日、京都文化博物館フィルムシアター)


 確か小林信彦だったと思うが、自ら「喜劇」を名乗り出して、日本の喜劇は全く面白くなくなった、といった趣旨の文章を記していた。
 面白いか面白くないか、事の当否はひとまず置くとして、いわゆる「喜劇」を冠したプログラムピクチュアが量産されてルーティンにルーティンを重ねたことは事実だろう。
 森繁久彌、伴淳三郎、フランキー堺のトリオを中心に、計23本も撮影された喜劇駅前シリーズもそのうちの一つで、正直駅前はこじつけとしか思えないようなタイトルの作品も少なくなかった。
 例えば、駅前茶釜とか駅前怪談、駅前音頭、駅前探検とか。
(喜劇駅前市役所、喜劇駅前基地外、喜劇駅前原発という三つの作品のプロットをぱぱっと思いついたが、あえて省略。お知りになりたい方には直接お教えします)
 で、『駅前旅館』なんてタイトルだから、それこそシリーズ中の一作だろうと思う人もいるかもしれないが、さにあらず、これは井伏鱒二の同名作品を八住利雄が脚色し、豊田四郎が映画化した、さしずめプレシリーズとでも呼ぶべき作品だ。

 おなじみ、森繁、伴淳、フランキーのトリオに、森川信、山茶花究、浪花千栄子、左卜全、藤村有弘、都家かつ江、沢村いき雄、武智豊子、若水ヤエ子といった顔触れが揃っていることからも明らかなように、この『駅前旅館』はもちろん喜劇で、例えばフランキーがロカビリーの真似をしていると、新興宗教のじいさんばあさんどもが修学旅行の女学生といっしょになって踊り狂い始めるシーン(若き日の市原悦子も一枚かんでいる)などおかしくって仕方がないのだが、一方で森繁演じる上野の駅前旅館の古風な番頭次平が徐々に居場所を失っていく様が巧みに描かれるなど、単なる笑劇軽喜劇には終わっていない。
 またそうした作品役回りに相応しい演技を森繁久彌も披歴している。

 ほかに、淡島千景(森繁との絡みでは、どうしても同じ豊田監督の『夫婦善哉』を思い出してしまう)、淡路恵子が作品に彩りをもたらし、草笛光子(淡島淡路の色っぽさ艶っぽさに対して、彼女は怜悧冷徹な役柄だ。巧い)、三井美奈、藤木悠、多々良純、堺左千夫(プログラムにはカッパ=強引な客引きの一員とあるが、実際は警官役)、大村千吉、谷晃、野村昭子も出演。
posted by figarok492na at 22:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画記録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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