監督:五所平之助
脚本:館岡謙之助、長谷部慶治
台詞:由起しげ子
撮影:宮島義勇
音楽:芥川也寸志
(2012年5月24日、京都文化博物館フィルムシアター)
昔『あばれはっちゃく』という少年少女向けのドラマがあって、善意で行動しているはずがへまをやっては東野英心演じる父親に叱られるはっちゃくという少年の気持ちが痛いほどわかるような気がしたが、この『黄色いからす』も…。
と、書きかけて、いやいや、実はそれだけじゃないんだよなあ、と思ってしまう。
五所平之助にとって初のカラー作品となる『黄色いからす』は、出征のために父親の顔を知らずに成長してきた少年(設楽幸嗣)が、中国大陸から引き揚げてきたその父親(伊藤雄之助)ばかりか母親(淡島千景)との関係にも深いひびを入れてしまい…。
といった展開なんだけれど、先日CDレビューでちらと触れたように、一年の大半を航海に出て家を留守にしていた父と子供の頃の僕の関係も、けっこう微妙なものがあったんだよね。
当然、父のことを嫌いってわけじゃないんだけど、離れて暮らす時間が長い分、うまく距離がとれないというか。
それに、父は父で、幼いときに実の父を徴用先の三菱の工場で原爆で亡くしたのち、実の父の弟(ちなみに、テレビのプロレス中継を明かりもつけずに観ていたのがこの祖父)と母親が結婚したことで、父と子の関係を身をもって知らないこともあり、僕に対してつい斜に構えたような態度をとってしまう。
映画の中の伊藤雄之助が戦地帰りの辛さ苦しさを味わっているように、僕の父もいろいろしんどかったろうな、と今だったら思えるが、その頃はこちらも幼いのでどうしても納得がいかなくて。
少年と父親のディスコミュニケーションが大きなテーマとなっているだけに、どうしても自分自身の子供の頃のことを思い起こさずにはいられなかった。
(ただ、淡島千景演じる母親が夫である父親に加えて新しく生まれて来た妹に対して愛情を強く向けることで少年をはじき出す結果となる映画と異なり、僕の母の場合は、早産で生まれた弟がすぐに亡くなってしまった上に、長く身体の調子を悪くしてしまったのだが。そのせいで、たまさか近くにあった母方祖父母の家で過ごす時間が多かった。そうそう、母の体調不良には、妊娠中に服用したある風邪薬が大きく関係しているのではないかと、僕は疑っている)
それはそれとして、少年(子供)や両親(夫婦)、家族、そして周囲の人々(社会)との関係が丹念に、かつ優しい視線をもって描かれており、非常に腑に落ちる作品だった。
伊藤雄之助は、根が善人でありながら戦争体験もあって鬱屈とならざるをえない父親という役柄にぴったりだったし、淡島千景もときに母親でありときに妻であるという一人の人間の感情の変化をよく表わしていた。
また、少年たちを暖かく見守る隣人や教師を田中絹代(五所監督とは、国産初トーキーの『マダムと女房』等でおなじみ)や久我美子(五所監督では、原田康子原作の『挽歌』にも出演)がそれぞれ演じているほか、飯田蝶子、多々良純、高原駿雄、中村是好、沼田陽一らも出演している。
なお、キャメラマンは宮島義勇。
少年の描く黄と黒のみを配色した絵(作中、精神的に不安定な子供が選ぶ色である旨説明がある)をはじめ、彼にとっても初めてのカラー作品ということを十二分に意識した撮影を行っていた。
柔らかさ甘さと不安をためた芥川也寸志の音楽も作品にぴったりで、胸につんときた一本。
たまには、こういう作品もいいな。
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