2012年01月14日

裸の大将

☆裸の大将<1958年、東宝>

 監督:堀川弘通
 脚本:水木洋子
 音楽:黛敏郎
 製作:藤本真澄
(2012年1月14日、京都文化博物館フィルムシアター)


 裸の大将山下清というと、若い人ならすぐにドランクドラゴンの塚地武雅の顔を思い出すだろうが、僕ら40前後の世代だと、なんと言っても花王名人劇場の芦屋雁之助ということになる。
 太平シローに負けじと、「ぼ、ぼ、ぼくは」と雁之助さん演じる山下清の真似を吃音症になりそうな勢いで繰り返したものだけれど、少し前にKBS京都で再訪された『裸の大将放浪記』の映像を観る機会があって、透けた黒いシャツを着た小坂一也やピンクのネグリジェを着た大泉滉、眉毛をやけに強調したケーシー高峰と共に監獄に入れられた雁之助山下清には、こんなシュールな作品と子供の頃に接していたのかと、ちょっとびっくりしてしまった。
 で、そんなことをさらに年配の人と話していたところ、その人の口から、「雁ちゃんの山下清はちょっと悪達者やなあ」という言葉がもれた。

 今日、堀川弘通監督(本来は成瀬巳喜男が撮影するはずだった)、水木洋子脚本による『裸の大将』の、小林桂樹演じる山下清に触れてみて、その人の言わんとすることがよくわかるような気がした。
 同じ山下清を演じるにしても、笑いで鍛えた人であるだけに、芦屋雁之助が口調ばかりか表情、身体の動きにも様々なデフォルメを加えているのに対し、小林さんのほうは、リアリスティックというか、実直に細かく山下清の特徴を掴み取ることで淡々とユーモラスな雰囲気を醸し出しているといった感じがしたからである。
 個人的には、軽演劇調の雁之助さんの山下清も捨て難いが、小林桂樹のそこはかとない味わいの山下清に強く心を魅かれたことも事実だ。

 加えて、のちのテレビドラマでの、蒸気機関車、巡査との追いかけっこ、食堂などでの住み込み働き、逃走と放浪といったフォーマットが、すでにこの『裸の大将』の段階で確立されていた点も興味深かった。
(いずれの作品も、山下清が綴り、式場隆三郎がまとめた『放浪日記』を下敷きにしたものなのだから、エピソード的に重なり合うものがあるのは当然だけれど、やはりフォーマットに関しては水木洋子の脚本を踏襲したと考えて間違いはあるまい)

 また、冒頭で記したシュールな設定を想起させるような精神病院の場面(千葉信男、藤木悠、千石規子、賀原夏子らが登場)や「夢」の場面が挿入されているが、そうした部分も含めて、この『裸の大将』では、嫌戦的(反戦的と言うよりも)な姿勢、庶民の狡さや戦後の変わり身の早さへの批判的な視点が示されている点も忘れてはならないだろう。
(山下清が徴兵忌避のために放浪を続けるという設定や、終盤自衛隊の行進に対して山下清が素朴な疑問を投げかけるところなど、その最たるものではないか)

 そういえば、芝居達者な面々やひと癖もふた癖もある面子をキャストにそろえるという点でも、この『裸の大将』と雁之助さんのドラマは共通していて、始まってすぐの巡査役のブーちゃん市村俊幸を皮切りに、母親役の三益愛子(大映の母物とは異なり、山下清に対してなんともつっけんどんな態度をとっている。と、言って優しさがないわけでもないが)、式場隆三郎らしき学園の先生役の加藤和夫、本間文子、高堂國典、若き日の毒蝮三太夫(石井伊吉)、沢村貞子、団令子(好きなんだよね、僕はこの人のことが)、中村是好、有島一郎、一の宮あつ子、三好栄子、堺左千夫、佐田豊、谷晃、青山京子、横山道代、中田康子、柳谷寛、加東大介、田武謙三、左卜全、荒木道子、沢村いき雄、東野英治郎(陸軍の軍人で、荒木貞夫みたい)、南道郎、上田吉二郎、三木のり平、並木一路と内海突破(戦後すぐの人気コンビ)、コロンビア・トップライト、ハナ肇とクレージーキャッツという東宝らしい布陣に加え、飯田蝶子と坂本武まで出演して非常に嬉しいかぎりだった。

 あと、のどかな感じに満ちていて、なおかつリリカルで諧謔的でもある音楽は、あの黛敏郎。
 ラスト近くの追っかけのシーンで、芥川也寸志の交響曲第1番の終楽章を茶化したような曲調になるのが、僕にはおかしくて仕方がなかった。

 様々な点から愉しむことのできた一本だ。
posted by figarok492na at 23:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画記録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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