2012年01月05日

自由学校(大映版)

☆自由学校<1951年、大映東京>

 監督:吉村公三郎
 脚本:新藤兼人
 原作:獅子文六(岩田豊雄)
(2012年1月5日、京都文化博物館フィルムシアター)


 『三文役者あなあきい伝』<筑摩文庫>は、自称三文役者殿山泰司の自叙伝であるとともに、盟友たる新藤兼人や吉村公三郎との近代映画協会の苦難苦闘の歴史を綴った一冊でもあるが、その「ノン・タイトル」という章で、吉村公三郎監督が撮影し、自らも出演した『自由学校』について詳しく触れられている。
 曰く、『自由学校』は大映と松竹で競作となり、「一応は千葉信男や小堀明男が候補に上がっていたのであるが、映画の前宣伝をもかねての一般からの募集というチマチマしたことをやることになり、どこでどうなったのか」、文藝春秋新社の小野詮造が主人公五百助役に選ばれ、「小野文春という芸名で」出演することになったとのこと<文末注>。
 さらに殿山泰司は、(五百助という主人公役は)「小野さんの風ボウと人柄にどんぴしゃりで、ヌーボー的な性格のその役にぴったりの好演であった。小野さんに対して、失礼な言葉かもしれないが、シロウトでもこれだけでけるのだ。そこに映画の秘密がある」と続け、冗談をまぶしながらも、「映画俳優とは何だ?」という大きく難しい問題を提起している。

 確かに、この大映=吉村監督版での小野文春は、正直達者ではないものの、五百助という大柄で物事にあまり動じない人物像にはぴったりと合っている。
 ただ、殿山さんが「映画の秘密がある」と付言している通り、松竹=渋谷実監督版と比較すると、五百助の役回りは相当小さなものに変わっているような気がする。
 それは言い過ぎだとしても、小野文春という素人俳優の技量技術にあわせて、原作が大幅にいじられてしまったことは、まず間違いないことだろう。
 一例を挙げれば、殿山さん自身が演じる元海軍軍人(同じ新藤兼人のシナリオということで、ふと『しとやかな獣』の伊藤雄之助を思い出す)を、松竹=渋谷監督版では殿山さんの兄貴分にあたる小沢栄(太郎)がやっていて、同じ戯画化でも、どこかに原作者岩田豊雄(獅子文六)の『海軍』を想起させる哀しさがあったが、こちらの『自由学校』では、物語中の一挿話、賑やかし程度の意味合いしか持っていない。
 こうした変更には、やはり小野文春の力量(佐分利信のような「やり取り」ができない)が大きく影響を与えているのではないだろうか。
 そうしたこともあり、総じて松竹=渋谷監督版に比べて、中身が薄いというか、すかすかとした印象と物足りなさを僕は抱かざるをえなかった。
(一つには、実質的に松竹を追い出された形となった吉村・新藤コンビが、松竹=渋谷監督に対抗して変化球を投げたということもあるだろうけど。あの『愛染かつら』でおなじみ『旅の夜風』=「花も嵐も踏み越えて」のメロディの引用や、斎藤達雄、岡村文子らのキャスティングなど、そのよい見本だ)

 その分、小野文春を支える共演陣の芸達者腕達者ぶりは冴えていて、木暮実千代の賢しい美しさ、京マチ子の躍動感、山村聰の気障たらしさ、この作品がもとで身を持ち崩した感すらある(?)大泉滉のイカレポンチを存分に愉しめはしたが。
 そうそう、藤田進のパロディカルな起用も傑作だが(観てのお楽しみ)、『青い山脈』(木暮実千代がこの『自由学校』とは全く反対の役柄を演じていた)への言及や、その他の細かい台詞を考えれば、単に映画的なお遊びというだけではなく、1951年当時の「逆コース」的風潮を揶揄したものではないかと、僕は思った。
 ほかに、徳川夢声(文学座=獅子文六つながりか)、藤原釜足、加東大介、英百合子、山口勇(余談だが、小林信彦の親類にあたる)、織賀邦江らも出演。

 あっ、あと一つ。
 吉村公三郎らしく、時折技というか、わざとというか、あんたまたやってはるなあ、と思わせる箇所がいくつかあったことを付け加えておきたい。

 そういえば、『三文役者あなあきい伝』では、滝田ゆうの漫画賞受賞式で、今や重役となった二十何年ぶりの小野詮造から「トノさん、あんたはちっともかわらんねェ」と言われてしまったというエピソードを殿山泰司は記している。
 まあ、それはそれとして、三日やったらやめられないはずの役者(それも、これまた三日やったらやめられないはずの浮浪者を演じた)の道など見向きもせず、その後重役にまで上り詰めた小野詮造という人は、五百助なんかと違って、見かけによらず結構したたかな人物だったのかもしれない。



*注
 菊池寛と大映のつながりを考えれば、小野詮造の起用は「出来レース」だったのではないか。
posted by figarok492na at 18:01| Comment(3) | TrackBack(0) | 映画記録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 2012年01月05日の「自由学校」に関する文章に、
『三文役者あなあきい伝』では、滝田ゆうの漫画賞受賞式で、今や重役となった二十何年ぶりの小野詮造から「トノさん、あんたはちっともかわらんねェ」と言われてしまったというエピソードを殿山泰司は記している。
 とありました。本(1979年出版の単行本の古本)を購入しましたが、該当する箇所が見つかりません。もしかして、別の本ではありませんか? それとも、文庫版に加筆された文章でしょうか?
 ご教示をお願い致します。
Posted by 中村実男 at 2013年03月11日 12:43
 失礼いたしました。
 文頭に、ちゃんと「筑摩文庫」とありました。
 早速、購入します。
Posted by 中村実男 at 2013年03月11日 12:46
こんばんは。
コメントいただき、誠にありがとうございます。

すでにご了解いただいたように、ちくま文庫版になります。
改めてお求めいただければ幸いです。
Posted by figaro(中瀬宏之) at 2013年03月12日 23:17
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