☆ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」他
指揮:ケント・ナガノ
管弦楽:モントリオール交響楽団
<SONY/BMG>88697857372
あまたあふれんばかりのラーメン屋が並ぶ激戦区。
さて、いったいあなたはそのうちのどの店を選ぶのか。
名店ガイドでもおなじみのあの老舗か。
それとも、麗々しい看板を掲げたこの新入りか…。
うぬぬ、ラーメン屋とクラシック音楽のCD、それも偉大なる楽聖ベートーヴェンの交響曲のCDを比べるなどとは不敬不遜の極み、てめえは人間じゃねえやたたっ斬ってやらあ、などと目は血走り口走る原理主義的クラシック音楽愛好家の方がいらしたら本当に申し訳ないが、ケント・ナガノ指揮モントリオール交響楽団が演奏したバレエ音楽『プロメテウスの創造物』ハイライト&交響曲第3番「英雄」のCDのブックレットの表紙に掲げられた「GODS, HEROS, AND MEN(神々、英雄たち、そして人間)」というタイトルを目にしていると、どうしてもそんなことを思い起こしてしまうのだ。
つまり、前回の『エグモント』全曲(ただし、『ザ・ジェネラル』というタイトルで物語が現代に置き換えられている)&交響曲第5番同様、あまたあふれんばかりのベートーヴェンの交響曲録音の中で、できるだけ多くのファンの耳目を集めんための営業努力の必死さというかなんというか。
いや、「神々、英雄たち、そして人間」というテーマで、『プロメテウスの創造物』と交響曲第3番「英雄」を並べたこと自体に無理はない。
それに、『プロメテウスの創造物』のフィナーレ(トラック5)の旋律は、まんま交響曲第3番の終楽章(トラック9)に転用されているから、音楽としての関係性も悪くない。
ただ、ケント・ナガノとモントリオール交響楽団の演奏を聴くかぎり、ちょっとその看板は大仰すぎるんじゃないのかな、と思ってしまうことも事実なのである。
と、言っても、個人的にはこのCDの演奏が好みに合っていないというわけではない。
いわゆるピリオド奏法を意識した早めのテンポをとりながらも、打楽器などに過度なアクセントをつけることなく、バランスよくスリムに、しかもシンフォニックな性質もしっかりと活かしつつ音楽を造り上げるケント・ナガノの手腕には感心するし、モントリオール交響楽団もそうした指揮者の意図によく沿った演奏を行っていると思う。
だから、繰り返し聴くというCD本来の目的から考えれば、悪くない仕上がりのアルバムだと言えるんじゃないだろうか。
まあ、要は、そういう演奏であり録音だからこそ、あんまり神々やら英雄やら(そこには、人間宣言した現人神を加えてもいいかもしれない)についてイメージできないということで、それこそ指揮者が神であり英雄だったころの演奏を好む方たちには受け入れられないんじゃないかと思ったりするのだ。
なお、このアルバムはエンハンスドCDとなっていて、そちらに、上述した「神々、英雄たち、そして人間」に関する朗読つきの演奏が収められている。
ご興味ご関心がおありのむきは、ぜひご一聴のほど。
(ケント・ナガノとモントリオール交響楽団の一連の録音が、カナダ本国ではAnalektaレーベルからリリースされており、このアルバム朗読部分こみの2枚組として発売されているようである)
2011年05月18日
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