☆夕べの調べ(リスト:ピアノ作品集)
独奏:ネルソン・フレイレ
録音:2011年1月(デジタル/セッション)
<DECCA>478 2728
聴き始めればそれなりにきちんと聴くのだけれど、自分から好んで聴こうとは思わない作曲家がいる。
パガニーニやラフマニノフ、そして今年生誕200年を迎えたリストなど、その最たるものだろう。
こうやって名前を挙げてみればはっきりするが、華麗なる技巧を散りばめたいわゆるヴィルトゥオーゾ・タイプの作品がどうにも僕の好みには合わないらしいのだ。
だから、パガニーニにしてもラフマニノフにしてもリストにしても、積極的にCDを買ってはこなかった。
例えば、パガニーニのCDは今一枚も手元にないし、ラフマニノフとてもらい物の交響曲全集があるだけ。
そしてリストもまた同様で、ゾルタン・コチシュが独奏を務めたピアノ協奏曲集を譲って以来、一枚たりとて自分のCD棚に加えたことがなかった。
そんな人間が、リストのピアノ作品集のCDを購入にしてみようと思ったきっかけは、ひとえにネルソン・フレイレが自分自身の愛着の深い作品を選りに選って録音するという解説文に心魅かれたからである。
と、言うのも、僕は何年か前にたまたまフレイレが弾くショパンの練習曲集とピアノ・ソナタ第2番他<DECCA>を購入して、その誠実で丁寧な演奏に感心したことがあったからだ。
実際、森のささやき、巡礼の年第2年『イタリア』から「ペトラルカのソネット第104番」、忘れられたワルツ第1番、ハンガリー狂詩曲第8番、バラード第2番、巡礼の年第1年『スイス』から「ワレンシュタットの湖畔で」、ハンガリー狂詩曲第3番、6つのコンソレーション、超絶技巧練習曲集から「夕べの調べ」、と並べられたプログラミングを目にするだけで、このアルバムが単なるこれ見よがしの技巧のひけらかしではないことがわかるのではないか。
もちろん、二つのハンガリー狂詩曲や、アルバムのタイトルとなっている「夕べの調べ」など、フレイレのテクニックのあり様もしっかりと示されてはいるのだけれど、個人的にはやはり、比較的淡々としていて、しかしリストの音楽の持つ抒情性やインティメートな感覚をしっかりととらえた彼の音楽の歌わせ方にまずもって魅了された。
中でも、6つのコンソレーションの優美で繊細な感情表現が強く印象に残った。
いずれにしても、リスト=けばけばしい音楽、と誤解している方々にこそお薦めしたい一枚である。
そういえば、CD初期(と、言うよりLP末期)に今は亡きホルヘ・ボレットが、リスト編曲によるシューベルトの歌曲集を録音していたが、できることならフレイレにも同じようなアルバムをつくってもらいたい。
シューベルトとフレイレの音楽性はとても相性がよいように思うのだが。
2011年04月22日
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