2009年01月14日

ぺらいドラマ

 軽佻浮薄には軽佻浮薄の意味があって、それこそ傲岸不遜の裏返しである慇懃無礼な物言い構えようへの鋭い批判にすらなることも稀ではない。
 そこから敷衍するならば、稲垣吾郎が演じる金田一耕助などは、横溝正史というととかく語られがちな、おどろおどろしさだとか、日本文化の底流云々かんぬんといった「それらしい」言説へのアンチテーゼとしてとびきりの存在と言えないこともないだろう。
 実際、横溝正史の原作にあたれば、金田一耕助なる人物は、戦前アメリカ生活を満喫し、たとえ身なりはオールドファッショとはいえ、時代時代の風俗に反応し、はてはアメリカへと再び旅立っていくという、よい意味で軽佻浮薄を地でいく人物であった。
 加えて、陰惨かつ強烈な殺人事件が繰り返されようと、時に「あっはっはあっはっは」と笑い声を上げ、さらには奇怪な言動や行動すら辞さないエキセントリックな性格の持ち主でもある。
 僕がかつてCXの『犬神家の一族』における稲垣金田一の演技を好評価したのも、彼のありていに言って深みのない演技が、原作の金田一耕介の持つ「おかしな」部分と巧く重なり合っているように感じられたからだ。
 そしてその後も、真面目くさって失敗した『八つ墓村』(よくも悪くも「近代能楽集」な藤原竜也の責任も大きい)は置くとして、原作通り衣笠宮(老いたな高橋昌也)が登場し栗山千秋のファムファタルぶりも見事なハーレークイン調の『女王蜂』というなかなかの観ものを、CX・星護・稲垣吾郎チームは生み出してきた。
 だが、過ぎたるは及ばざるが如し。
 いくら横溝正史の原作が軽佻浮薄や荒唐無稽の性質を有していたからといって、それをデフォルメし過ぎれば、事態は惨憺たるものとなる。
 それはもう、津山三十二人殺し、ではない、八つ墓村における大虐殺もびっくりというありさまだ。
 そう、年始に放送された、『悪魔が来たりて笛を吹く』(再放送)と『悪魔の手毬唄』の両ドラマなど、もはや軽佻浮薄という言葉ではおさまりのつかない、ぺらさもぺらしおそろししの極みだったと思う。
 ゑびす神社の残り福をいっしょにいただきに行った旧い友だち(見巧者なり)も、『悪魔が来たりて笛を吹く』は観ていて、そのぺらさのひどさで盛り上がったのだけれど、稲垣吾郎率いるぺらさチームの中で、国仲涼子(貴族の令嬢にしてはキュート過ぎるけど)と榎木孝明(狂気!)だけが大奮闘だったということで一致した。
(付け加えるならば、帝銀事件を彷彿とさせる天銀堂事件の再現場面も悪くない)
 ぺらいものをぺらいと断じるのは気がひけるが、稲垣吾郎はもちろん、ラストでフルートを吹く犯人もぺらいし(その点、ドラマ版の沖雅也はよかった。涅槃で待つ心境がよく出ていたから)、秋吉久美子も「お前ならそういう関係にもなるやろ」と言いたくなるぺらさ。
 これでは伊武雅刀の意図したぺらさが埋もれてしまって、なんのため彼を最後まで生かしたかわからなくなってしまった。
 一方、『悪魔の手毬唄』も辛かった。
 個人的な好みもあってだろうが、青池里子を演じた柴本幸の美しさと、原作の持つ二面性を表していた佐々木すみ絵(映画版の原ひさ子ではただただ善なる老女としか思えなかった)、三木のり平のかろみはないものの健闘した有薗芳記以外は、石田太郎も山口美也子もぎりぎり及第点。
(麿さんは悪くないのだが、どうしても中村伸郎と比較してしまうのだ、やっぱり僕は)
 せっかく登場した仁科亜希子は悲惨だったし(ああ、仁科明子…)、かたせ梨乃も「二時間サスペンスドラマ流儀の名演技」、そして山田優や村の青年団連中のぺらいことぺらいこと。
 特に山田優は彼女の持ついやたらしさが全面に出ていて、かえって、映画で仁科明子があの役を演じた意味がはっきりとわかったほどだった。
 まあ、そんな演者陣のぺらさより、事件の顛末を稲垣金田一に活弁調で語らせてしまった(正直、稲垣君にではなく、シチュエーションそのものに虫酸が走って仕方がなかった)演出家なりプロデューサーの結構のぺらさをまずもって責めるべきだろうが。
(そら、『笑の大学』も、映画にしてみりゃああいう代物になるわいな)
 いずれにしても、物事にはバランスというものが肝心だということだ。
 イデオロギーに翻弄されて重く重く重たるく物事を受け止めるのも困りものだが、軽佻浮薄が極まって必要以上にぺらさが勝るのも悲しい。
 ひるがえって考えてみれば、石坂浩二の金田一耕助も、古谷一行の金田一耕助も(ただし、彼の場合は毎日放送制作の1970年代のもの)、軽さと重さ、ユーモアセンスとシリアスさのバランスが巧くとれた演技を行っていたのだった。
 そして、もちろんそれは、市川崑をはじめとした、作り手の側のバランス感覚のよさの表れでもあったといえるのだろうが。
posted by figarok492na at 13:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑感 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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