2008年12月26日

アーノンクールの太鼓連打とロンドン

 ☆ハイドン:交響曲第103番「太鼓連打」、交響曲第104番「ロンドン」

  指揮:ニコラウス・アーノンクール
 管弦楽:アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
  録音:1987年6月

  <TELDEC>8.43752(243 526-2)


 前年に京都賞を受賞し、2006年秋には手兵コンツェントゥス・ムジクス・ウィーン、並びにウィーン・フィルとの来日公演を成功させたニコラウス・アーノンクールは、現在世界を代表する指揮者の一人であり、音楽家の一人である。
 そして、彼もその一翼を担ったピリオド楽器による演奏やピリオド奏法を援用したモダン楽器による演奏は、完全とは言えないまでも、今やバロック、古典派、さらには初期ロマン派の作品を再現する際に避けては通れないものとなっている。

 だが、約30年ほど前、というから、ちょうど僕がクラシック音楽を熱心に聴き始めた頃のことになるが、ニコラウス・アーノンクールがそれまでのバロック音楽に留まらず、モーツァルトやハイドンといった古典派の音楽を演奏しだした時の拒否反応というものは、今では想像のつかない激しいものだった。
 確かNHK・FMで放送された、ウィーン国立歌劇場における『魔法の笛』のライヴ録音には、生々しいブーイングの声も収録されていたはずだし、コンツェントゥス・ムジクス・ウィーンとのモーツァルトのレクイエムを初めて耳にした時は、僕もそのガット弦の針金をこすり合わせたような音色やアーノンクールの強烈な音楽解釈には大きなショックと違和感を覚えたものだ。

 今回ここで取り上げる、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団との、ハイドンの交響曲第103番「太鼓連打」と第104番「ロンドン」のCDも、ニコラウス・アーノンクールへの評価が未だ賛否相半ばしていた時期、1987年6月に録音されたものである。
(ちなみに、創立100周年を記念してコンセルトヘボウ管弦楽団にロイヤルの名が冠されるのは、翌年1988年で、だからこのCDでの表記は旧名のままだ)
 で、以下は上述した事どもを踏まえての感想なのだけれど、この録音から20年を経過した2008年現在においては、この両曲の演奏が奇異に感じられることは、まずもってない。
 少なくとも、僕にはない。
 確かに、アーノンクールの音楽づくり(強弱の付け方、アクセントの置き方等々)は独特なもので、例えば、ブルーノ・ワルターやトマス・ビーチャム、ピエール・モントゥーたちのハイドン演奏ばかりを耳にしている人ならば、必ず「えっ?!」と顔面を強張らせることは間違いないとは思うのだけれど。
 でも、よい意味で(もしかしたら、悪い意味でも?)、僕はピリオド楽器による演奏やピリオド奏法の洗礼を受け過ぎてきたのだ。
 ただ、その分、この二つの交響曲の持つ音楽的な拡がり(そこには、それまでのヨハン・クリスティアン・バッハやアーベルの交響曲との違いも含める)や音楽的仕掛けの在り処がよくわかるし、一つにはレーベル側の営業的な計算もあったのかもしれないが、ハイドンの後期交響曲=いわゆるザロモン・セットを録音するにあたって何ゆえアーノンクールがコンセルトヘボウ管弦楽団を選んだのかもよくわかる。
(この頃のコンセルトヘボウ管弦楽団って、見事なオーケストラだなあ。聴いていて、本当にそう思う)

 いずれにしても、「太鼓連打」冒頭のティンパニ連打をはじめ、アーノンクールの音楽的個性によく添ったテルデックの録音ともども、実に聴き応えのある一枚と言える。
 僕は初出時のCDを、中古で税込み500円で手に入れたが、これは税込み1500円程度までなら安心してお薦めできる一枚だ。
 太鼓連打とロンドンのファーストチョイスとしても大推薦である。
posted by figarok492na at 12:45| Comment(0) | TrackBack(0) | CDレビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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