☆リスト:ピアノ協奏曲集
リスト:ピアノ協奏曲第1番、第2番
ドホナーニ:童謡の主題による変奏曲
独奏:ゾルタン・コチシュ(ピアノ)
指揮:イヴァン・フィッシャー
管弦楽:ブダペスト祝祭管弦楽団
<PH>422 380-2
ここだけの話、ロマン派期の協奏曲ってあんまりCDで聴く気にはなれない。
なぜなら、もともと天才鬼才、いわゆるヴィルトゥオーゾたちのために書かれたものだけに、耳だけじゃなくて目でも愉しむ要素の強い作品がほとんどだし、それより何より、ダーンダーンダダダダとか、チャンスカチャラチャラバカスカジャンといった第1楽章や終楽章のこけおどし的なオーケストレーションを部屋で一人、スピーカーを前にして聴いていると、「いったい自分は何をやってるんだろう」とどうにも醒めた気持ちになってしまうもの。
(そうしたこけおどしが、劇的効果を狙った聴衆の耳目をひくための景気づけとわかっているからこそなおさら)
だから、LP時代から現在にいたるまで、今回取り上げるリストのピアノ協奏曲などついぞ手元に置いたことがなかった。
(付け加えるならば、パガニーニやドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲、ラロのスペイン交響曲のCDも持っていない。いずれも、冒頭部分の大仰さが「室内」向きではないと思ってのことだ)
それがどうして、今頃になってリストのピアノ協奏曲のCDを購入したかというと、中古とはいえ、このアルバムが500円になっていたからであり、ドホナーニ(指揮者クリストフ・フォン・ドホナーニの祖父)の珍しい作品がカップリングされていたからである。
で、実際、このCDの聴きものは、ドホナーニのほうなんじゃないかと僕は思う。
少なくとも、僕が一番感心したのはドホナーニの童謡の主題による変奏曲だ。
ドホナーニのこの作品は、「ああ、ママに言うわ」、と言うより、キラキラ星の名でおなじみのあの旋律を主題にしたピアノと管弦楽のための変奏曲なのだけれど、大仰極まりない冒頭部分からして、批判精神とユーモア精神に満ちあふれた実に聴き応えのある音楽となっている。
自らピアニストとして活躍していたこともあって、ピアノ・ソロのつくりは当然しっかりしているし、後期ロマン派の骨法をよく身につけたオーケストレーションだって愉しいかぎりだ。
確かに大名曲とは言い難いかもしれないけれど、もっとコンサートで演奏されてもいいのではないかとすら思うほどである。
コチシュのソロは、技術的にも精神的にも過不足のないもので、この作品を識るという意味では、全くもって問題がない。
一方、リストのピアノ協奏曲においても、コチシュの特性美質は十二分に発揮されている。
透徹した抒情性とでも評するべきだろうか、リストのコンチェルトの持つリリカルな側面を的確に表しながら、それが変にべとつくことがない。
また、テクニックやパワーの面でも作品と互角に渡り合い、位負けしていない。
コチシュのソロ、だけを取り出せば、見事の一語と言うべきだろう。
問題なのは、イヴァン・フィッシャーとブダペスト祝祭管弦楽団の伴奏である。
カエサルのものはカエサルに、じゃない、マジャールのものはマジャールに、という考え方自体はもちろん悪くなくて、僕自身、あらぶるフン族魂大噴火式のフォルテ部分は面白くって仕方がなかったのだが、繰り返し聴くというCD本来の目的からいうと、少々以上に粗さが目立つ。
加えて、第1番の冒頭部分がそうであるように、テンポ感がよくないというか、どこかしまりのない感じもつきまとう。
正直、そうした点が、このアルバム自体の評価を大きく分ける原因ともなっているのではないか。
とはいえ、ドホナーニを聴くためだけでも買って損のないCDだとも、僕は考える。
税込み800円以下なら「買い」の一枚だろう。
なお、ドホナーニの童謡の主題による変奏曲は、マティアス・バーメルト指揮BBCフィル他による録音がシャンドス・レーベルからリリースされている。
また、ドホナーニには、「わらの中の七面鳥」の旋律が効果的に使用されたアメリカ狂詩曲というオーケストラのための作品があって、こちらはバーメルト指揮BBCフィルの録音(交響曲第1番とのカップリング)のほか、アラン・フランシス指揮フランクフルト放送交響楽団の録音(ヴァイオリン協奏曲第1番とのカップリング。CPOレーベル)もある。
興味がおありの方は、ご一聴のほど。
(できれば、童謡の主題による変奏曲やアメリカ狂詩曲は、交響曲第1番を録音しているレオン・ボッツタインとロンドン交響楽団による演奏のリリースをテラーク・レーベルに期待したいところなのだが、無理かなやっぱり。そういえば、ボッツタインと北ドイツ放送交響楽団の演奏したブルーノ・ワルターの交響曲がCPOレーベルから出る予定だが、ボッツタインとテラーク・レーベルの契約は切れてしまったのか?)
2008年12月21日
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