2008年10月26日

東京カルテットの「死と乙女」

 ☆シューベルト:弦楽4重奏曲第14番「死と乙女」&第4番

  東京カルテット
  1989年、デジタル録音
  <RCA>7990-2-RC


 桐朋学園出身でジュリアード音楽院に留学中の日本人4人によって結成された東京カルテットだが、その結成当初のメンバーによる清新な演奏や現在の落ち着いた雰囲気の漂う演奏にも増して、第1ヴァイオリン奏者をピーター・ウンジャンがつとめた1980年代から1990年代、RCA=BMGに数々の録音を重ねていた頃の演奏が、僕には強く印象に残る。
 このシューベルトの弦楽4重奏曲第14番「死と乙女」と第4番がカップリングされたCDも、そうしたウンジャン時代に録音された一枚である。
(なお、シューベルトの弦楽4重奏曲では他に、第9番と第13番「ロザムンデ」、第15番の2枚がリリースされていた)

 第2楽章に歌曲『死と乙女』の音型を用いた変奏曲が置かれていることでも知られる弦楽4重奏曲第14番は、激しい感情表現に貫かれた密度の濃い作品で、シューベルトの晩年を代表する一曲と言ってもまず過言ではないだろう。
 東京カルテットは、強い集中力とバランスのよくとれた緊密なアンサンブルで、そうした作品の持つドラマティックな側面を巧みに浮き彫りにしている。
 また、作品の持つ幅の拡がりというか、交響楽的な拡がりもよく表しているのではないか。
 特に、ベートーヴェンの弦楽4重奏曲第11番「セリオーソ」からの影響が強く感じられる第1楽章では、東京カルテットの音楽づくりの魅力が十二分に発揮されているように思う。
 一方、第4番の弦楽4重奏曲でも、東京カルテットの音楽的な方向性は首尾一貫していて、演奏によっては弛緩しきってしまう可能性の高い難所も隙を感じさせない演奏で見事にクリアしている。
(その分、いわゆる歌謡性には若干欠けるかもしれないが、シューベルトの音楽の持つ一つの側面を明らかにするという意味でも、アルバム全体の統一という意味でも、東京カルテットのこの録音は高く評価に値すると僕は考える)

 東京カルテットの演奏によく添ったRCAドライで解像度の高い録音も含めて、繰り返し聴けば聴くほど愉しさを満喫できる一枚。
 いくら中古とはいえ、税込み630円は安すぎる!
posted by figarok492na at 11:34| Comment(0) | TrackBack(0) | CDレビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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