2007年10月12日

女人哀愁

 京都文化博物館まで、入江たか子主演、成瀬巳喜男監督の『女人哀愁』(1937年、PCL・入江プロ)を観に行って来た。

 『女人哀愁』は、入江たか子のプロダクションとPCL・東宝の提携一本目の作品であり、後年『マリアの首』等の戯曲で知られる田中千禾夫と成瀬監督自身が脚本を書いている。
(台詞の中に、「人形」という言葉が巧く使われていることからもわかるように、イプセンの『人形の家』が下敷きとなっていると思しい)

 おおざっぱに言って、お昼のソープオペラの源流と評することができるのだろうが、家庭の「道具」としてしか扱われない若い嫁=主人公(入江たか子)がある「事件」をきっかけに「目覚める」というストーリー展開は、当時としてはやはり斬新だったろうと思うし、それより何より、「やるせなきお」のままで終わらない精神的なカタルシスがあって、とてもすかっとする。
(表面的な展開やメッセージとともに、それが「象徴」しているもの=隷属から覚醒、解放という流れは、いささか教条的であるとはいえ)

 また、主人公の横顔に「籠の鳥」が重なるカットはわかりやすいメタファーだけれど、その少し前に主人公の弟を鳥籠にぶつからせて「籠の鳥」の存在を気づかせるなど、よい意味で教科書的な構成・造形にも好感が持てるし、主人公の実家の描き方も成瀬監督ならではと感心した*。

 若き日の入江たか子(大林宣彦作品でおなじみ、娘の入江若葉を思い出す)は、映画スター然とした、と言うよりそのおっとりとした人柄からくる演技が少し気にならなくもないが、彼女を意識した設定・台詞がぴたりとはまっていて、特に後半が強く印象に残る。
 加えて、後年の上原謙の役どころの「ひな形」=主人公の夫を演じた北沢彪の軽薄さと傲慢さ、弱さの表現がいい。
 他に、いつもの如き軟弱な色男を演じた大川平八郎(成瀬作品では、『浮雲』でのお医者さんの別れの時の表情が忘れられない)、佐伯秀男、御橋公、堤真佐子、沢蘭子(近衛秀麿の愛人! 入江たか子とは逆に、人柄がにじみ出た嫌な演技をやっている。って偏見か?)らが出演していた。
(あと、佐伯秀男の同僚役で、ちらと松本克平さんが出演していたような気がするが、これは未確認だ)

 これは観て損のない作品。
 古い邦画好きにはぜひともお薦めしたい。


 *御橋公ののど仏を突然アップにするなど、はっとするようなカットもいくつかあったが。
posted by figarok492na at 21:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画記録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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