2007年09月17日

ここに泉あり

 昨日、京都文化博物館で、今井正監督の『ここに泉あり』(1955年、中央映画)を観た。

 『ここに泉あり』は、群馬フィルハーモニー・オーケストラ(現在の群馬交響楽団)という実在するオーケストラの日々直面する困難な状況と、それでも演奏活動を続けていこうとする真摯な姿が、様々なエピソードを積み重ねながら描かれた作品である。
 時に、「うわっちゃあ」と気恥ずかしくなってしまうシーンや「それは物事を単純化しすぎやろう」と突っ込みたくなる展開もあるのだけれど、ハンセン病患者の「隔離施設」での演奏会や利根の山奥の小学校での移動音楽教室のシーンなど、「誰のために表現するのか?」という問いかけへの明確な答えが示されていて、強く心を動かされずにはいられない。
 また、岸恵子と岡田英次の「(よい意味で)所帯じみた」場面は、脚本の水木洋子の独壇場だと思ったし、乾いたユーモアをはじめとする明るい雰囲気も魅力的だ。
 全編2時間半*1、「生理的な欲求」以外の苦痛はほとんど感じずにすんだ。
(ディアナ・タービン主演、レオポルド・ストコフスキー共演の『オーケストラの少女』との関連性を感じたこと、フジテレビのドラマ『それが答えだ!』は、この『ここに泉あり』に大きく影響されているのではないかと感じたことを付け加えておきたい)

 役者陣では、岸恵子、岡田英次のカップルと、オーケストラのキーパーソンであるマネージャーを演じた小林桂樹をまずは挙げるべきだろうが、個人的には加東大介と三井弘次という黒澤作品でおなじみの二人が強く印象に残った。
 特に、酔った加東大介が「きれる」シーンは圧巻だ。
 他に、中村是好(表情が味わい深い)、東野英治郎、十朱久雄、近衛敏明、増田順二、清村耕次、原保美、千石規子、沢村貞子、原ひさ子、伊沢一郎、多々良純、田中栄三(映画監督の)、織田政雄、若き日の大滝秀治、庄司永建、奈良岡朋子ら民藝、俳優座、前進座等の面々が出演している。
(加えて、山田耕筰とピアニストの室井摩耶子が特別出演していることも興味深い。室井のチャイコフスキーは予想していた以上に聴きものだったし、山田耕筰の演技もなかなかのものだった)

 ところで、現実の群馬交響楽団は、その後も苦難の道を歩み続ける。
 『ここに泉あり』の裏話も含めて、そのあたりの事情については、日本音楽家ユニオン・オーケストラ協議会の機関誌、季刊『オーケストラ』に長期連載された群馬交響楽団のヴィオラ奏者関口利雄さん*2(映画では、ヴィオラ奏者の青山が彼にあたるのでは?)の文章が詳しい。
 映画ではいささか「軽薄」にさえ見えるマネージャー・井田亀夫のモデル、丸山勝広の「実際の人となり」をよく伝えている点でも貴重だろう。


 *1 実は、現存するフィルムには「カット」があって、草笛光子の出演するシーンなども抜けている。

 *2 NHKの『プロジェクトX』にも出演していた関口さんは、惜しくも昨年亡くなられた。
 僕は、10年ほど前、藤田翼也という指揮者(群馬交響楽団の定期演奏会を数回指揮している)の消息を知りたくて、一度電話でお話をうかがったことがある。
 深く、深く、深く、深く黙祷。
posted by figarok492na at 12:30| Comment(2) | TrackBack(0) | 映画記録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「黙祷」とありましたが、藤田翼也はまだ生きてます。
娘より
Posted by さちよ at 2009年10月04日 10:58
再度読み返しましたら、解釈が誤っておりました。大変失礼いたしました。
Posted by さちよ at 2009年10月04日 12:16
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