2007年08月06日

『魔法の笛』でしょう、やっぱり

 アドルノのひそみに倣えば、ヒロシマ・ナガサキの後に「詩」を書くことは野蛮だし、「小説」や「戯曲」を書くことも、「オペラ」や「交響曲」や「ラブソング」を作曲することも、「映画」や「テレビドラマ」を撮影することも野蛮だろう。
 もちろん、それが全てではないけれど、「現実」というものに真正面から真摯にぶつかろうとする表現者には、どうしても避けることのできない「テーゼ」の一つであるとも、僕は思ってしまう。


 さて、と。
 以下、結構長くなりますよ。

 京都シネマまで、ケネス・ブラナー監督の『魔笛』(2006年、イギリス作品)を観に行って来た。

 現在公開中なので詳しい内容に関してはあえて触れないが、おおまかに言って、ケネス・ブラナーらしい「明度の高い」、そしてどこかスター・ウォーズ的で、モンテパイソン的でもある作品に仕上がっていたのではないだろうか。
 加えるなら、オリジナルのモーツァルトの歌芝居が持つ、ごった煮「邪劇」的要素も充分汲み取られていたと思う。
(夜の女王のアリアや、パパゲーノがらみの歌の場面を観よ!)
 また、オリジナルから「戦争」の影を嗅ぎとったブラナーの解釈もあながち的外れではないだろう。
 特に、冒頭の序曲の部分は強く印象に残る。

 ただねえ、個人的には、「どうにも微妙だなあ」という言葉が正直な感想なのだ。

 夜の女王が「等身大」で描かれている点にははっとしたし、「邪劇」的な部分も嫌いじゃないんだけれど。
 アウシュヴィッツやヒロシマ・ナガサキの後に、この解釈は、あまりにも脳天気番長すぎやしないかと、僕には感じられてしまうのである。
 少なくとも、あのペーター・コンヴィチュニーの「苦い」演出の存在を知っている身には、ここで描かれている「暗から明への勝利=平和の到来」という「考え方」自体がうさん臭くきな臭く思えてしまうのだ。
(いやいや、そういう反応はちゃちゃんと織り込みずみでんがなまんがな、だからこそ「メルヘンタッチ」、なおかつ「モンテパイソン」的にしたんやおまへんか、と切り返されりゃ、はははそうやったんやあ、と答えるしかないとはいえ)

 あと、オリジナルを知らない人(当然、そういうお客さんもいらっしゃると思う)、特に映画好きには、物語の「展開」があまりにも突っ込みどころ満載に思えてならないんじゃないかな。
 まっ、もとの台本がもとの台本だから、ここはご勘弁していただくということで…。
(僕らが考えている以上に、欧米では『魔笛』という作品は「ポピュラー」なのだ。例えば、日本における『忠臣蔵』みたいに。だから、「根本的」な筋の陳腐さ、整合性のなさを気にする必要はそれほどなかったのだろう。それ自体、なあんか傲慢?)

 もう一つ。
 歌が英語という点で、「原語至上主義」の人たちはおかんむりかもしれないけれど、これは一応「インターナショナル」配給の映画なので、仕方ないんじゃないだろうか。
(そういえば、日本向けの「仕掛け」があるのだが、あれは「あざとく」とられかねないな)
 アングロ・サクソン的な発想という気もするけど、ベルイマンだってスウェーデンの言葉を使ってたはずだし。
 それに、イギリスやアメリカでは『魔笛』を英語上演しているカンパニーも少なくない訳だから。
(ちなみに、アウフヴィーダーゼーエンはアウフヴィーダーゼーエンとドイツ語で歌わせている)

 音楽の演奏は、ジェイムズ・コンロンの指揮するヨーロッパ室内管弦楽団。
 アーノンクールやアバドに比べると数段落ちてしまうが、映画の世界にはよく添った、きびきびとして劇場感覚に不足しない音楽づくりをコンロンは行っていたのではないか。
 ヨーロッパ室内管弦楽団も達者な演奏で、まずもって不満はない。
(コンロンは映画の中にも出ていた)

 ルネ・パーペをはじめとする演者陣も、「歌芝居」という意味では大健闘と言えるだろう。
 タミーノ、パミーナの二人をはじめ、わりかしルックスもいいしね。


 で、最後に。
 この作品の原題は英語の『マジック・フルート』なんだから、ここは『魔法の笛』でしょう、やっぱり。
 そっちのほうが、よっぽど映画の雰囲気にあってるはずだもん。
 だいいちああた、『魔笛』はないでしょ『魔笛』は。


 *追記
 『魔笛』を観て二日が経ったが、なんとも言えない後味の悪さが未だに残っている。
 これで監督がテリー・ギリアムだったら、その後味の悪さも含めて、「確信犯やで確信犯」とまくしたてるんだけどなあ。
 ケネス・ブラナー、「100パーセント」意図してやってくれているのかなあ。
 もしもそうじゃなかったら、ちょっとねえ…。
posted by figarok492na at 18:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画記録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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