2012年05月16日

にごりえ

☆にごりえ<1953年、文学座・新世紀映画社>

 監督:今井正
 原作:樋口一葉
 脚色:水木洋子、井手俊郎
 脚本監修:久保田万太郎
(2012年5月16日、京都文化博物館フィルムシアター)


 その長い生涯のうち、数多くの作品を遺した今井正だが、この『にごりえ』は、そうした彼の作品の中でも屈指の一本の一つということになるのではないか。
 水木洋子と井手俊郎によって脚本化された、樋口一葉の『十三夜』、『大つごもり』、『にごりえ』(もっとも尺数が長い)の三作品をオムニバスのスタイルで映画化したものだが、樋口一葉自身が日々直面し痛感していたであろう明治の女性の苦境・悲劇(貧しさと切っても切れない)が丁寧に、なおかつ抑制された表現で描かれていて、こちらの心に切々と伝わってくる。

 また、役者陣も作品の世界観に沿って見事である。
 優しく善人であるがゆえに過ちを犯してしまう『大つごもり』のみねを演じた久我美子の可憐さや、酌婦の様々な顔を巧みに演じ分けた『にごりえ』の淡島千景の達者さと色っぽさはもちろんのこと、脇を固める文学座の面々も流石だ。
(当然そこには、脚本監修で名を連ねている、くぼまん久保田万太郎との共同作業の成果も大きく影響していると思う)
 京都文化博物館フィルムセンターのプログラムにクレジットされているのは、『十三夜』で田村秋子、丹阿弥谷津子(金子信雄夫人。第一話とはいえ、彼女がヒロインを演じていることからも、当時の文学座での彼女の位置がわかる)、三津田健、芥川比呂志、『大つごもり』で中村伸郎、長岡輝子、龍岡晋、仲谷昇、荒木道子、『にごりえ』で杉村春子、宮口精二、南美江、北城真記子、賀原夏子、文野朋子、十朱久雄だけだが、ほかに気がついた範囲で、北村和夫、岸田今日子、有馬昌彦、小池朝雄、青野平義、北見治一、稲垣昭三、神山繁、加藤和夫、加藤治子、小瀬格、加藤武、内田稔も出演していた。
 あと、『にごりえ』には山村聰が重要な役回りで出演しているし、子役として前進座の河原崎次郎と松山政路も出ている。

 フィルムの状態はあまり芳しくなかったが、大きなスクリーンで改めて観ておいて正解の作品だった。
 演劇関係者にも強くお薦めしたい。
posted by figarok492na at 22:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画記録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

外出前の日記(CLACLA日記)

 晴天。
 いいお天気、いい青空となる。

 気温も上昇する。


 昨夜、京都文化博物館まで行って、3Fのフィルムシアターで小津安二郎監督の『お茶漬の味』を観る。
 詳しくは、前回の記事(映画記録)をご参照のほど。

 上映終了後、ちょうど同じ回を観に来ていた、京都造形芸大映画学科の岩佐悠毅君と夕飯をとりながら、いろいろと話しをする。
 岩佐君とは、月世界旅行社のマチヤ映画夜行や同じ造形芸大の小川泰寛監督の『ネックレス』の現場等で度々接してきた間柄だ。

 24時過ぎに帰宅後、5時近くまで仕事関係の作業を進める。


 午前のうちに起きて、クリスチャン・フェラスが弾いたヴァイオリン小品集<ドイツ・グラモフォン>を4度続けて聴いたりしながら、仕事関係の作業を進めたり、高井英幸の『映画館へは、麻布十番から都電に乗って。』<角川書店>を読み進めたりする。


 今日は、これから京都文化博物館のフィルムシアターで今井正監督の『にごりえ』を観る予定なり。
 それじゃあ、行って来ます!
posted by figarok492na at 17:22| Comment(0) | TrackBack(0) | CLACLA日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

お茶漬の味

☆お茶漬の味<1952年、松竹大船>

 監督・脚本:小津安二郎
 脚本:野田高梧
(2012年5月15日、京都文化博物館フィルムシアター)


 実の甥、黒川鍾信による本格的評伝『木暮実千代』<NHK出版>を紐解くと、木暮実千代にとって唯一の小津安二郎監督出演作となる『お茶漬の味』で散々な目にあったことが、詳らかにされている。
 詳しくは、同書の297頁から301頁、第六章の「日本映画の黄金時代を舞い上がる」のシーン9をご参照いただきたいが、親友役で出演した上原葉子(小桜葉子。上原謙の妻。加山雄三の母)から嫌がらせを受けるわ、小津安二郎との相性は悪いわと、「踏んだり蹴ったりの目にあった」木暮実千代は、後年彼女の付き人の経験もある妹がお茶漬を食べようとしている際、「顔色を変え、ひっつかむように茶碗を手にすると台所へ走って中身を捨て」、「自身もお茶漬を口にしなかった」というのだから、相当のものがある。
 ただ、実際作品を観てみると、役とのつき具合は置くとして、そんな裏の事情など露ほど見えてこないのだから、やっぱり映画は面白い。

 ええとこの生まれの妻と田舎出の夫のぎくしゃくした関係(味噌汁かけご飯のくだりなど巧いし、子供がいない夫婦という設定も重要だ)に、姪御の見合い話が絡まって…、というのは小津作品ではおなじみの展開だが、プロ野球の試合風景を皮切りに、当時流行のあれやこれやがふんだんに取り入れられているのは、戦時中に書かれた脚本を戦後になって仕立て直したことも大きいのだろう。
 思うに任せない人間(夫婦)関係、女性どうし男性どうしの友情、戦争の記憶、さらには子供の効果的な使い方等、小津作品に欠かせない様々な要素が巧みに盛り込まれていて観飽きない*。
 木暮実千代に対する佐分利信のぬーぼーとした雰囲気はいつもながらに嬉しいし、淡島千景、津島恵子、鶴田浩二、笠智衆、柳永二郎、十朱久雄、望月優子らも役柄に合った演技を各々披歴している。
 なお、上原葉子同様、ジャーナリストで随筆家の石川欣一が社長役として「特別出演」しているが、なかなか堂に入った演技だ。
 また、日活以前の北原三枝の姿を初めのほうのシーンで観ることができる。

 まさしく、お茶漬の味的な一本だった。


 *ただし、今回上映されたフィルムにはけっこうカットがある。
posted by figarok492na at 14:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画記録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする